見えない不安との戦い。人々の生活だけではなく、その生命を脅かすような、かつてないほどの難しい状況に直面した時にどうするべきか。
「カルチョはストップしないが、カルチョより優先しなければならないことがある」。
イタリアは大きな決断を下しました。
スケジュールは通常通りに進め、1カ月間に渡って無観客試合を行う。それがCOVID-19(新型コロナウイルス)を遮断し、来るべき時期にリスタートするための答えでした。
そして、カルチョ・イタリアーノとユーヴェの対応は素早いものでした。ユーヴェは次の1カ月間でCOVID-19の拡大と予防のため、クラブとチームに対して細かい決まりをアナウンスしました。その中には医療的な予防はもちろん、セレモニーへの出席やファンサービスを控えるというところにまで言及されています。
1カ月間に渡る無観客試合。
こういったケースはスポーツの世界では極めて稀のはずであり、おそらく私がユーヴェを追いかけ始めて経験する初めての局面です。
ティフォージ・ユヴェンティーニがいない状況で選手たちが聞くセリエAのアンセムによって、スタジアムはどのような雰囲気を醸し出すのでしょうか。
あるいはレオナルド・ボヌッチが前を向いてビルドアップしようとした時に見えるのはどんな景色でしょうか。
そしてクリスティアーノ・ロナウドはゴールを決めた際にいつものパフォーマンスを行うのでしょうか。
試合後にはいつものようにユーヴェのアンセムが流れるのでしょうか。
集音マイクがピッチの選手たちやベンチからの声を拾うような日常ではないシーンを観ることになるかもしれません。
そのスタジアムは想像以上に無機質な空間を作り出されるように思います。少なくとも1ヶ月に渡って、マウリツィオ・サッリと選手たちはこれまで見たこともないような、ある意味では異様な未知の世界で戦わなければならないのです。
私は初めてユヴェントス・スタジアム(現アリアンツ・スタジアム)に入った時のことを思い出します。
当時、私が感じていたスタジアムの印象は以下のようなものでした。
座席に着いて最も感じたのは、ティフォージの声がよく響くことだ。背の高いスタンドが遮るため、声が逃げずにピッチ上にこもる。(中略)音声がとてもよく響くので、臨場感は何倍にも増した印象だ。 このスタジアムの特徴が最も感じられる瞬間だろう。(中略)ティフォージはゲームに集中し、良いプレーには拍手を、 悪いプレーにはブーイングをと、はっきりとしたリアクションを取る。選手の立場からすれば、大きなモチベーションを感じられるスタジアムと言えるのではないだろうか。
(CALCiO2002 2011年11月号「Juventus Stadium 希望が詰まったスタジアム」より)
昨今、いくらクルヴァからの声が縮小されたとしても観客がいる、いないは大きな差です。
拳を挙げて最後までチームをサポートするティフォージ・ユヴェンティーニの後押しがあるのとないのとでは選手たちがいくら最高クラスのプロであっても、そのメンタルに大きな影響を与えると考えられます。
とりわけユーヴェはホームで圧倒的な強さを誇っているだけに、スタジアムを包むポジティブな雰囲気を感じられずに戦うことになるのは大きな不安要素です。
しかし、悲観的になってはならず、ポジティブにいかなければならない状況であるのも確かです。
なぜならシーズンは重要な時期に入っているからです。カンピオナートは混戦状況が続き、チャンピオンズリーグは突破がかかるリヨン戦が控えています。
セリエAはマラソンに例えると30kmを迎える勝負の時です。もしかしたらこの無観客試合を制したチームがスクデットを勝ち取るかもしれません。各チームに何か対策があるのかとても興味深いところであり、どのような結果になるのか。
また、タイトル奪回を目指すチャンピオンズリーグでは何としてもリヨン戦をクリアし、ベスト8への切符を掴んでほしいところです。
ユーヴェに何か大胆な策があるのかどうか。サッリと選手たちは、この難しい状況をどのように戦っていくのでしょうか(いつものように!?このあたりを本当はオフィシャルファンクラブメンバーズと議論したいところですが、日本も時期が時期だけに難しいところです)。
かつてない状況はいくつかの混乱を引き起こすかもしれません。
しかし、とりわけイタリアは日本と比較して良い意味で政府がスポーツ界に協力的であるように見えます。官民一体となって政治とスポーツ界が協力し、こういった予想できない緊急事態の状況で何を優先して何の優先度を落とすのかといったノウハウが蓄積されるのはポジティブなことであると考えたいものです。
そしてこの1カ月で選手たちがティフォージを強く恋しく思い、一方でティフォージがまたスタジアムに足を運んでチームを応援したいと思い、春が感じられる頃にはスタジアムで再会していつもの日常が戻ることを願わずにはいられません。
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